相続対策入門(その1)考える時に陥る間違い

相続対策入門

資産家の方が相続対策を考える時によく有る間違いは、単に節税策を考えたり、遺言書の作成を検討してみたりといった、一部分のみを考えてしまう事です。

確かに、それだけで事が足りてしまう方も、いるのは事実です。

しかしそれでは、そもそも良い対策が立てられなかったり、事情や状況の変化により行った対策の意味が無くなってしまったり、新たな対策の必要性が出てきたり、となる事が有るものです。
その様な事態にならない為には、全体像を考える・全体像から考える必要が有ります。

 相続対策の全体像を考える・全体像から考える必要性。

相続対策というと、まずは節税策などに目が行きがちですが、自身の普段の生活と共に配偶者や子供たちの生活も、考える際には検討項目とすべきです。
それは、今はご自身も含め家族みんなが元気だったとしても、病気やケガ、老後の生活など変化が付き物だからです。

また同時に、そもそも節税策といっても、相続発生時にどうか?その時の税制はどうなっているか?等の問題も関係する為、一部分や一時の策では結果として効果が無い・薄い事も有り得る話です。

その様な事態を避ける為には、全体像から計画を立てておく必要が有りますし、定期的な計画の再確認・検証・調整も行った方が良いのは言うまでも有りません。

その為今回は、その“相続対策の全体像”を検討する際の検討する項目について、書いてみたいと思います。
相続に関わる項目は非常に多岐にわたる為、全てを網羅する事は出来ませんので、不動産をお持ちの方を対象に書いてみました。
モチロン、書ききれていない物も有ると思いますが、入り口として検討する項目の参考にはなると思います。
全体像の為、今回は各項目の詳細は書きません。
それらは、随時別の記事にて書いていきたいと思っています。

尚、本記事の税制や民法その他の法令等に関する事は、執筆時点のものです。
それらは、随時改正等が行われる事、その方の事情や条件等により適切かどうかは変わりますので、必ず専門家や対応する行政機関等に御相談下さい。

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 相続対策の全体像の期間。

まず相続対策の全体像といっても、ピンと来ない方もいるかもしれません。
スタートはモチロン今です。
ゴールは、ご自身と配偶者がお亡くなりなった後、お子さん方の生活が安定するまででしょう。
つまり過去から未来への流れを考える事です。

基本的によく言われるのは、上記の図の様に“相続発生時”を境にして、5つに分ける事です。

1、相続発生より1年以上前
 (時間のかかる対策や、それ以前から関係する事柄など)

2、相続発生までの1年以内
 (直前にしておいた方が良い事や、直前でないと出来ない事など)

3、相続発生から相続税の申告期限まで
 (相続税の申告に関する事など)

4、相続発生から1年後以内
 (相続税に関して、後から出来るかもしれない事)

5、相続発生から3年後以内
 (相続税の納税に関して、数年間は実は終わっていない事)

※イメージしやすい様に分けていますので、期間や年数は目安の物も有ります。

 1、相続発生より1年以上前

・遺言書等の活用による遺産分割対策
・土地有活用等による相続対策
・生前贈与の活用による相続対策
・生命保険等の活用による相続対策
・資産管理法人設立等による相続対策
・自社株対策

これらが、相続発生までに時間の有る場合の対策の主な物でしょう。
対策自体は、わりと短期間で行う事が出来る物も有りますが、時間のかかる物も有ります。
また、時間をかけて更に効果を高めるといった事も有ります。

●遺言書等の活用は、いわゆる“争族対策”です。
これについては、必要か?必要でないか?で考える事が、適切ではない場合があります。
それは、遺産分けで揉めるかどうかは、その時になってみないと分からない事だからです。
事前に、その答えは分かりません。
その為筆者の考えは、「念の為」といった事や「準備しておいてあげる」という事から考え出した方が、良い様な気がしています。

●土地有効活用による相続対策は、主に節税目的でしょう。
資産家の方の中には耳にタコが出来るぐらい、節税対策としての賃貸マンション等の建設の話しを聞いている方もいると思います。

賃貸マンション等の建設による節税策自体は、それはそれで大事なポイントです。
ただ忘れてはいけないのは、賃貸マンション建設による節税効果は時間と共に効果が低くなってしまう事が有る事や、節税効果が大きい反面、当然リスクもそれなりに有る事です。
その為、建設して安心するのではなく、その効果を持続させる・効果を高める対策を同時に行っていくかどうかが大切だと思います。

●生前贈与の活用による相続対策は、事前の移転による相続対策です。
暦年贈与と相続時精算課税制度の2つが主です。

相続税より贈与税の方が、基本的には税率は高くなりますが、暦年贈与であれば小分けにして複数回(複数年)行う事で、効果を高める事が出来る反面時間(年数)が掛かります。

また相続時精算課税制度は、一定金額まで条件に合致すれば相続発生時まで贈与税を納税する必要が無く、相続時の清算により納税の必要が無かったりする制度です。

上手く使えば効果を発揮しますが、一定金額以上は税率が暦年贈与とは違う点や、他の税制上の特例との併用の可能性等、検討・確認した方がよい項目は沢山あります。
どちらにしても、税金(相続税)を安くする為にと、半端な知識で行うとシッペ返しを喰らう可能性が有ります。
贈与の事実認定や、租税回避行為に当たらないか?といった事などです。
その為の注意が必要です。

●生命保険等の活用による相続対策は、生命保険の非課税枠の活用や分割対策としての利用が考えられます。

もし、相続が発生するまで使う予定のない現預金等があるなら、せっかくの非課税枠を使わないのは、わざわざ相続税を余計に払っているのと同じですし、遺言書を使わずに金融資産の一部を誰に渡すかの意思表示にも使える為、ぜひ検討すべきポイントだと思います。

●資産管理法人設立等による相続対策は、不動産が多い方にはやりようによって、とても効果を発揮するかもしれない方法です。
特に時間をかけて、様々な方策(所得の分散や生前の移転など)を組み合わせて行えば、大きな効果が期待できます。

ただ反面、デメリット(コストや手間)やリスク(制度改正や株の分散など)も沢山有りますので、法人を作って相続が終わるまでの間、しっかりその法人の管理や運営を行っていく必要が有ります。

●自社株対策とは、会社の経営者・所有者の対策です。
経営権と所有権の両面を考える必要が有ります。

家族などの同族の人が会社を引き継ぐ場合もあれば、同族以外の人が引き継ぐ場合も有るでしょう。
どちらにしても、その会社の経営の継続性が最重要ですので、事前の対策や準備が最も必要であると同時に、経営とのバランスを考えた対策を立案する事が必要になってきますので、より時間が必要な対策の1つでしょう。

◎さて、ココまでの事で注意して頂きたいのは、解り易く“1年以上前”としましたが、高齢化社会を迎えている現在では、1年どころか、もっと前から考える方が良いケースが増えてきていると思います。
それは、長寿の方が増えた事も有り、認知症や介護の問題が増えてきているからです。

ご本人が認知症になってしまってからでは、基本的に相続対策は何もできなくなります

遺言書の作成はもとより、土地活用や保険の加入だけでなく、何かの契約やそれらの変更などもできなくなったりする事も有ります。

また、認知症と体の健康具合は基本的には、あまり関係が有りませんので、認知症になってから長生きされる方も沢山いらっしゃいます。
その点からいえば、1年程度前から考えるといった事ではなく、今から亡くなるまでの間の事と考えた方が良いと思います。

更には、配偶者の方の事も有ります。
それは、配偶者の方にも同様の問題が有るという事と同時に、どちらかが先に亡くなった場合の、残された側の生活などへの配慮もしておくべきだと思うからです。

実話ですが、ご主人が亡くなった途端に跡継ぎのお嫁さんが豹変して、残された義母を家から追い出し、老人施設送りにしてしまうわ、残された財産をアノ手コノ手で使ってしまうわ、と言う事も世の中には有るのです。

そこまでの事態は稀だとは思いますが、例えば後継ぎさん家族にあまり迷惑や世話をかけずに、配偶者の方が生活して行ける様にしておいてあげる事も、大切だと思うのです。

実際の費用面などの事も有りますが、気持ちの面も有ると思うのです。
世話をしてもらって、有り難いと思う事も申し訳ないと思う事も、人間の感情ですから。

 2、相続発生までの1年以内

・配偶者の為の相続対策
・養子縁組の活用による相続対策
・直前対策

●配偶者の為の相続対策は、年金などの収入面の問題と、実際の生活の面での対策が有ると思います。

残された配偶者の収入状況によっては、年金や各種税金などに違いが出ます。
その事を考えて、可能な対策が有るなら検討する・行う事も必要です。
また生活の面からは、相続が発生すると心情的にも大変な時期を迎える事もありますが、事前に普段の生活を維持して行けるかどうかもチェックしておいた方が良いでしょう。
特に普段は気にしていなくても、やはりご夫婦で助け合っていた部分は有る筈です。
例えば、病院へ行くのに車で送って行ってもらっていたり、冬場の石油ストーブの灯油を買いに行ってもらっていたり、食料品や日用品の買い出しなど、何気ない事ですが生活する上では、毎日の事となると大変な事も有ります。

そのあたりは、配偶者とのお互いの気遣いとして、考えてあげるべき大切なポイントではないでしょうか?

●養子縁組の活用による相続対策には、主として税金対策としての物と、争族対策としての物などが有ります。

税金対策としては、基礎控除額の増額や適用税率の引き下げ、世代飛ばしなどによるものでしょう。

また争族対策としては、ワザと相続人を増やす事で、あまり相続財産を渡したくない相続人への対抗策の1つとする場合も有るでしょう。

注意点は、税法上の取り扱いと民法上の取り扱いの違いを間違わない事と、子供としての権利が発生する事です。
養子にも、普通養子縁組と特別養子縁組の違いが有りますし、税法上で認められる人数には制限が有ります。
また、相続税を計算する時の控除などの違いも有りますので、短期間で対策可能な方法(市役所等での手続き程度)ですが、その効果を見極めた上でする必要が有ります。
更には、子供が増える訳ですから、争族争いの火種にならない様に注意する必要も有ります。

●直前対策には、墓地・仏壇等の非課税財産の購入や、評価減を目的とした賃貸不動産の購入や物納用不動産の購入、配偶者への居住用不動産やその取得資金の贈与などが考えられます。

ただし注意点としては、あまりにも直前だったり、その取引に合理性が無かったりすると、租税回避行為(意図的に税金を安くする為に行った行為で、相続税の計算上認めない)とされたり、そもそも本人の意思に基づくものか?といった疑義から、後々大変な事になるかもしれませんので、焦って行うような事はせず、専門家と相談の上で行う事が望ましいと思います。

 3、相続発生から相続税の申告期限まで

・申告にあたっての注意点と申告期限切れのデメリット
・分割の工夫

●申告にあたっての注意点には、まず相続税の申告の事は知っていても、それまでの間に準確定申告などやその他の手続きが必要である事を知らない方もいる事です。
相続対策について考え始めた方の中には、表面的な本の記事や他人からの話しで、相続税の申告は10か月以内であるという事のみを覚えてしまっていて、その他の申告や手続き等(相続放棄等の期限は3か月等)が有る事を忘れている方もいます。準確定申告などは4ケ月以内が原則ですので、注意が必要です。

また申告期限切れのデメリットとして、税法上の各種の特例には、その10か月という申告期限が条件になっているものが沢山あります。
配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例などです。
その為、遺産分割協議が整わなかったりして、せっかくの特例が使えない可能性も考えられますので、注意が必要です。

更には申告期限を過ぎてしまうと、申告していなければ無申告加算税が掛かりますし、納税期限から遅れた分には当然に利子=延滞税が掛かりますので、さらに税金を沢山払う事になってしまいかねません。
その為、必要最低限の相続税で済ませる為には、10か月といえども意外に時間は短いものです。

●分割の工夫とは、2次相続が考えられる場合には、2次相続も含めて考え相続税が安くなるように分割の割合などを工夫したり、大きな土地などであれば評価が下がるように、土地を分割したり名義を分散したりして相続するといった事です。
また、収益の上がる資産であれば、取得者の所得税などに配慮して工夫する事です。

所有資産の内容によっては、分割のやり方一つで、納税額に大きな違いが出る事も有ります。
ただし注意点としては、土地の分割では合理性が認められないといけない事や、名義の分散により後々の問題になる可能性も無い訳では有りません。
その為、申告や納税の期限までの限られた時間の中で工夫しないといけない場合は当然ですし、緻密な計画・検証が必要にもなりますので、専門家のチカラを早い段階から借りて検討すべきでしょう。

 4、相続税の申告期限から1年以内

・更生の請求

●更生の請求とは、申告書を提出した後1年以内であれば、計算に誤りが有った場合などに税務署に対し更生(修正)の請求をする事が出来る制度です。

また、裁判などの判決により、その計算の基礎が変わってしまった場合などは、判決から2ケ月以内でも可能です。
(申告期限から1年以上経過していても可能)

モチロン認められれば、という事が前提ですが、相続税の計算を詳細に行った所、安くなるようであればすべきでしょう。

相続税は、額が大きい事も有りますので、返してもらえる額も大きくなるケースが有ります。
言いにくい話ですが、税理士さんの中には、相続の申告に詳しくない方もいらっしゃいます。
年間の相続税の申告件数より、全国の税理士さんの数の方が多いとか…。
まして、相続税法は特例などが毎年のように変わりますので、上手く申告できていないケースが有っても不思議では有りません。

税務署は、納税額が不足すると言ってきますが、多すぎても(本当は少なく出来ても)言ってはくれません。

その為、納税額に納得がいかない場合や疑問に思う場合は、資産税を得意とする違う税理士さんにも申告内容が間違いないか、聞いてみる・確認してみる事をお勧めします。
中には納税額が数千万円は違ったなんて事も実際に有った話ですし、何より期限が有りますので、気になる方のみでなく、念の為の確認という意味でもお勧めします。

 5、申告期限から3年以内

・税務調査について
・取得費加算の活用

●税務調査については、申告してから平均で半年後から2年程度後に行われる事が多いようです。
(モチロンそれ以降の場合も有るでしょう。)
その為、申告してから忘れた頃にやってきます。

税務調査が行われるのは、申告の内容に誤りや疑義が有る場合に行われますが、調査に来るのは殆どの場合、事前の裏付け調査を行って有る程度の事を掴んだ上での事です。

その為、事前の裏付け調査を行って何も見つからなかった場合や見つけられなかった場合などは、調査に来ない事も有ります。

しかし、調査をして85%以上は何らかの申告漏れや資産隠しが見つかるとの事ですので、資産隠しは論外ですし名義預金などで、申告漏れを指摘される(相続財産に含めていなかった)事など、考えられることは様々有りますので、後からでも気づいた相続財産が有れば申告した税理士さんに相談して修正申告した方が無難です。

税務署から言われる前に修正申告するのと、指摘されて修正して納税するのでは、金額に違いが出る事も有りますので。

●取得費加算の活用は、不動産などを相続した人が申告後3年以内であれば、その不動産を譲渡した場合の譲渡税を安く出来る制度です。

当然全てが安くなるものでは有りませんので、適用されるかどうか・どのくらい安くなるかの検討は事前に必要です。

この制度の活用目的は様々考えられますが、相続で受け継いだ不動産の整理・組み換えを行う場合には検討する価値の大きい制度だと思います。
通常であれば、資産の組み替え等を行なう場合、その売却にともなう譲渡税などのコストが多く掛かかるものですが、そのコストを安く出来るチャンスですし、その機会・期間は相続の申告後3年以内と決まっている為です。
相続した資産の内容によっては、検討の価値が大きいでしょう。

ココまで書いてきた全体像を元に相続対策を検討される際には、スタート時点では資産の棚卸や再確認等を行う事をお勧めします。

なぜなら、計画全体に影響しますし、そもそも資産の内容を正確に把握しなければ、方向違いの策を立てかねないからです。
同時に、対策の実行にはコストとリスク(デメリット)も伴う事が多いので、その事も考えておきましょう。

また、いくら良い対策を立てても、実行しない・実行できなければ、絵に描いた餅になってしまいます。
その為、実行性の高さも忘れないで下さい。


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