賃貸事業の収入とは?
収入と所得の違い、お判りでしょうか?
既に何かの事業をされている方や、税務に明るい方には、ご存知の方も多いと思います。
しかし、これまであまり関わりが無かった方などには、ピンとこないと思います。
特に、これから賃貸事業を始めようという方や、相続などで引き継がれたばかりの方、数字が苦手な方などには、よく分からくて…、という方もいらっしゃると思います。
そこで、初心者の方やよく分からない方向けに、少しでも理解の手助けになればと、少々解説したいと思います。
なぜなら、この違いをしっかり理解できれば、色々な事が考えやすくなると思うからです。
あくまで入門用の、イメージを掴んで頂くための説明です。
なお、ここでの記載や表現、用語などは、あくまでイメージしやすいようにする為、正式な表現・説明ではない部分が有りますが、その点はご了承ください。
また税務に関する詳細な部分は、先ずは分かり易くイメージして頂くために、無視していますので正式な事は税理士さんや税務署等に、ご相談・お問い合わせ下さい。
先ず最初にご理解頂きたいのは、“収入”とは何かです。
一般的に言われている、収入と思って頂いても、ある程度大丈夫です。
しかし意識して頂きたいのは、それは“現金収入”を指しているという事です。
つまり、実際のお金の動きです。
賃貸事業をしているとして、普通に考えて収入とは何でしょう?
- 家賃収入
- 共益費収入
- 礼金等収入
- 駐車場収入
等でしょう。
これらは、物件を借りている方から、基本的に現金で戴きます。
イメージとして、積み上がった様な図にしてみます。
これだけでは、ピンとこないと思いますが、後々比較する為にとりあえず受け入れて下さい。
また、あくまでイメージとしてなので、図の中の各項目の割合は便宜上の物です。
ここから支出、つまり出ていくものが無ければ、全てが手元に残る収入となります。
しかし、現実はそうでは有りません。
現金で入ってくる以上は、現金で出ていくものも有ります。
それが、現金支出です。
最近では、現金の動きを“キャッシュフロー”といいます。
入るものはキャッシュインフロー、出ていくものはキャッシュアウトフロー、です。
しかし今回は、収入と所得の違いを理解する為なので、便宜上“キャッシュフロー上の支出”とさせて頂きます。
その内訳はどの様な物でしょう?
- 借入金の返済(金利+元本)
- 土地と建物の固定資産税や都市計画税
- 火災保険料
- 建物管理費
- 修繕費
- 仲介手数料
等でしょう。
収入と同様に、イメージとして積み上がった様な図にしてみます。
これも、収入の図と同様に、これだけではピンとこないと思います。
さてここでもう1つ、知らなくてはいけない、別の物が有ります。
“不動産所得”という物です。
これは、よく帳簿上の所得とか、申告所得と言われるものです。
いわゆる、税金を計算する為の申告上の“所得”です。
賃貸事業についての、毎年の所得税などを計算する為には、この計算が必要になります。
(普通は税理士さんなどに、お願いしていると思います。)
すごくシンプルに言えば、税金(所得税等)は、儲かった分に掛かります。
八百屋さん等に例えると、キャベツを100円で仕入れて150円で売れば、その差額(儲け)の50円に対して税金が掛かるという事です。
(他の消費税や細かい事は無視しています。念の為。)
基本的には、仕入れにかかった原価や経費などには税金は掛からない、という事です。
その原価や経費を、ここでは“不動産所得上の支出”とさせて頂きます。
では、その内訳はどの様な物でしょう?
- 借入金の返済(金利)
- 減価償却費(建物)
- 土地と建物の固定資産税や都市計画税
- 火災保険料
- 建物管理費
- 修繕費
- 仲介手数料
等でしょう。
先程のキャッシュフロー上の支出との違いは何でしょう。
1つはいわゆる、「経費」としての意味合いのものという事、もう一つは現金の動きではない、と言う事でしょう。
しかし、細かい部分はさておいて基本的に違うのは、借入金の返済のうち金利分は経費になりますが、元本部分はなりませんので、金利分のみが支出として認められるという事。
これは、元本部分は借りた物を返しているだけ、だからです。
金利分は、借入をして資金調達をしたその経費として考えますので、不動産所得上の支出でも経費に当ります。
もう一つ違うのは、減価償却費というものが加わっている事です。
これは、賃貸事業をする上での“商売道具”である建物は、建てたらその後は古くなって価値が下がって行きます。
その為、商売道具を仕入れて、それが使っているうちに損耗していると考え、経費として引いていくのです。
ただし、建物は長期間に渡って使うものですし、今日明日で使い物にならなくなったりしませんので、税法で建物の本体と設備を分けて、決まった計算により経費化していきます。
八百屋さんに例えると、最初にキャベツを10コ仕入れて、毎年1つずつ売っていく様な感じです。
仕入れた時ではなく、売った事によりその時点で仕入た事を認める形にして、分けて経費化するというイメージです。
(減価償却についての詳しい事は、かなり専門的になりますので割愛します。)
ではこれも同様に、イメージとして積み上がった様な図にしてみます。
これも、今までの図と同様に、これだけではピンとこないと思います。
そこでこれら、“収入”と“キャッシュフロー上の支出”と“不動産所得上の支出”を比較してみます。
並べた図がこちらです。
(クリックすると拡大します。)
これら3つとも、合計額が同じなら、儲けは有りません。
税金も掛かりません。
これが比較する時の基準です。
でもこの様な状態は、あまり現実的では有りません。
まぜなら、賃貸事業の期間中は、3つとも増えたりたり減ったりします。
そこでまずは、持っている土地に賃貸マンション等を建てた場合、を考えてみましょう。
よほど収益性が高くない限り、当初はこの図の様な関係になる事が多いと思います。
真ん中の収入と左側のキャッシュフロー上の支出との差が、表面上の手残り収入(現金収入)です。
真ん中の収入と右側の不動産所得上の支出の差が、申告上の収入(課税の対象)です。
また別の記事(賃貸事業の経費について)で書きたいと思いますが、建物を新築した当初などは、建物の減価償却費や経費が多い事などから不動産所得上の支出が多く、申告上は図の様に赤字になっている事がよく有ります。
その場合は、手残り収入(現金の儲け)が有るものの、それに対しては基本的に税金が掛からない事になります。
しかし、減価償却費は期間が経過につれて、減るものが有ります。
その為、数年すると次のような関係になります。
(図では、黒字部分が同額になっていますが、図解する為の便宜上での事です。)
この場合は、真ん中の収入と左側のキャッシュフロー上の支出との差額が、とりあえず残る形にはなります。
しかし、真ん中の収入と右側の不動産所得上の支出の差額の、申告上の“儲け”に対して税金が掛かる事になりますので、翌年に申告して納税する事になります。
その為、タイミングにズレが発生しますが、キャッシュフロー上の差額の儲けから、その後の納税分を差し引いたのが、本当の“儲け”(本当の意味での収入)になります。
先程までの図では比較の為に3つを並べましたが、もう少し分かり易いように並べ替えてみます。
多少は、分かり易いでしょうか?
モチロン厳密には、所得税等の税金については不動産に関する事を、単独で計算するものでは有りませんの、こんな単純では有りません。事業税や消費税等、関連する税金は他にも有ります。
しかし先ずは、この様な流れであるという事、その様な違いが有るという事を、これから覚える方や初心者の方は、理解した方が良いと思います。
なぜかと言えば、色々相談を受けている中で感じるのは、不動産所得や経費などの専門用語はだいたい知ってはいても、肝心な所の「結局どうなの?」という部分について答えが出ない方の多くは、よく似た用語や一般世間での言葉の意味とその分野では意味・内容が違う事が有る為、混同している事が有るからです。
その為、無理して専門用語などを覚えるよりは、先ずは、大まかな内容や意味する所を理解する方が先決だと思うのです。
その上で、細かな事を覚えて行かないと、頭の中が混乱してしまいます。
どうでしょう?多少は理解の助けになりましたでしょうか?
今回わざわざこの様な事を記事にしたのは、賃貸経営や収益マンションの購入などをされた方で、失敗だったという方の多くに、この様な事業としての基本的知識や理解が不足している方を、見て来たからです。
今回の収入と所得の違いだけ分かっても、100%では有りません。
又、別の記事で書くつもりですが、修繕費と減価償却費の関係や融資・ローンとの関係など、基本的な事柄で理解しておいた方が良い事がいくつかあります。
決して専門的な事を覚えるという事ではなく、その意味する所を理解すれば良いと思います。
それが出来れば、何が良くて何がダメか?の判断が付けやすくなるからです。
この判断が付けやすくなれば、事業を進めても良いかどうか? その収益物件を買っても大丈夫かどうか? 今の事業をもっと良くするにはどうすれば良いか? などがより分かってくると思うからです。
その為、ちょっと分かりづらい事かもしれませんが、興味のある方は一助として下さい。
せっかくですので、もう1つ図を掲載します。
これは、どのような状態でしょう?
以前、相談にのった方の事例です。
なかなか、この様な事態の方には巡り会えません。
今まで、一人だけです。